朝のシャンソン[まち角9]/リリー
 
 その視線はどこを見るでもなく
 誰を みるでもなく
 そして何に
 留まるでもない

 体になじむポロシャツと
 洗いざらしな作業ズボン姿のおじさん

 きっとシルバー人材センターからの派遣で
 駅構内や周辺を清掃されているのだろう
 集めたゴミの袋を足元に置き
 駅の中央広場、入り口付近で立ち尽くす

 おじさんは両の手を後ろに組み
 軽く左右に揺さぶる上体でリズム取りながら

 「おはようございまぁす。」
 と
 「行ってらっしゃぁい。」
 の 呼び掛けを繰り返すのだ

 高すぎず低すぎない耳触り良いトーンの
 まるで歌い手の様な 滑らかな口調
 どこにも力みの無い
 初老迎えられて日焼けした表情は若々しくて

 おじさんの現れる朝
 心に流れてくるメロディーのような
 呼び掛けへ
 小さな拍手の会釈を向けるのだが  

 どこか 
 遠い 目をする
 おじさんには届かないのだ

 
 
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