メルヒェン[まち角7]/リリー
ある人を喜ばせる役目を終えて
そのメルヒェンを忘れ果て
路上に居る様には見えなかった
マスコットキャラクターの小熊
目的のある足は目も触れず通り過ぎて行く歩道で
しゃがみ込んで拾うと 掌にコレの
身にそぐわない重みがあった
昨晩 耳にした鋭い雷鳴
部屋の窓から見た路面打ちつける雨がよみがえり
ここで仰向けのまま夜を明かしたに違いなかった
歩道沿いには雨除けになる場所も見当たらず
心細げに こちらを見る様な
瞳のまわりを指先で撫でて
ハンカチで包み
ショルダーバッグの内ポケットへ収めた
そして出勤した私のデスクの隅っこで一日座る小熊
昼過ぎから再び本降りの雨をもたらした雲は
夕刻時なると薄れ
手に取った小熊も乾いていた
蛍光灯で その黒い瞳に
誕生したばかりの星の瞬きの様な光の粒がくっきり
浮かんで見えた
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