金網/リリー
「朝顔を咲かせてきたの。」
始業時間のチャイム鳴る前、
いつもより遅れて出勤した私は
理由尋ねる彼女へ答えた
君よ 開け
線路わきの道沿いで
私の手が一輪の花へ伸びた
金網に引っかかっている その蕾の
頭から覆い被さる大きな葉っぱを横っちょへ除き
そっと触って角度も変えた
きっと これで息がしやすい様になっただろう
それを聞いた隣席の彼女は
手に持つ飲みかけのマグカップを机上へ置いた
その口元には 笑みを浮かべて
「咲いてるんやって。それでも。」
そうか
咲いていたのか
彼女には見えたのだ
数枚の葉の下で金網に身をひっかける蕾の
ほんとうの気持ち
彼女は六人姉妹の末っ子で老いた母親と二人暮らし
嫁いだ姉達には子供もいて
恋人との 結婚に悩んでいた
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