ゼウスの子[まち角5]/リリー
JRの車輌、
扉の傍に立った私の向かい側にいて
身を寄せ合う二人の男性
つい見惚れてしまう私の目には
まるで月のもと
ただ蒼白く静まりたる世界で
澄んだ瞳に引きしまった唇がある青年の
竪琴と
歌のするどい感受性の強い少年の横笛が鳴り
ゲーテが頭を抱えて嘆くほどに美しかった
囁く 二人の声色は
希望を開き
歓びを歌う
大地の様で
その輝くほほえみに
花々が咲きゆらぐ
その大地の一点に
かすかに映った私の姿
ひとり
うらさびしくなって
車窓に
くれてゆく雨空の
まち角が流れ去るのを見るのだった
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