ノート(夜の土のうた)/木立 悟
黄色い鎖が
何を縛るでもなく
地面に置かれている
廃車と遊具の鉄は響き
午後はゆらりと夜になる
夜のなかを
夜が動く
その高みにある輪郭が
すべるように落ちてくる
雨も光も飛び去ったあと
軌跡は遅く弧を描く
闇の液を泳ぎきり
うたを伝えつづける波
生まれつづける息の波
鉄は歩み 鉄は渡る
原をゆるやかに分ける音
戸惑いと迷いを分ける音
たどり着くふるえの水紋に
草は皆ふりかえり
互いの言葉の輪を交わす
うたをつなぎ
うたを断ち切り
ふたたびつなぎ得るちからを聴くのは
朝と午後を抱きながら
夜の土に立つ裸足の子
おのれが光と気づかずに
光そのものの目をひらき
他の光が見えず泣き叫ぶ
けだものよ
よろこびよ
みなもとよ
森と森のはざまの原を
ひとり歩む子の髪は
こぼれつづける小さな声を
知るものもない小さな声を
伝えつづける小さな生の
証のようにかがやいている
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