紅葉葵[まち角4]/リリー
ある晴れた日に一軒家の庭で
赤い五枚の花片をしっかり開く大きな花を
母と見たのは昔の話
花の名前が思い出せずに 覚えた小さな胸さわぎ
茎が真っ直ぐに伸びた葵科の花
「この花はね、今日しか咲かないの。一日しか咲かないのよ。」
「だからノンちゃんも」
で、記憶が途切れてしまう
平仮名の「の」しか未だ書けないでいた娘に
若い母はどんな言葉をくれたのか
十三回忌を迎えた夏
忘れてしまっていた花の名前を知った或る日
民家の庭で見た
数本の 濡れそぼつモミジアオイ
その花の隣に膨らんだ赤い蕾が、
雨雫で
首を前に垂れていた
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