黒い光輪。/田中宏輔
かった
ユダヤの王だなどと シモンの右足が
そんな世迷言をいったのか 小石を一つ
農夫のシモンにはわからなかった けった
わからなかったけれど、そんなことなど
いまの彼にとってはどうでもいいことであった
あの男の代わりに十字架を背負わされたところにきた
あの男が膝を折って蹲ったところだ、とそのとき
傍らを汚らしい灰色の犬が走り抜けていった
そいつは跛をひきひき走り去っていった
シモンの目に、あの男の幻が現れた
まだ磔にされる前、衣服を剥ぎ
…
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