黒い光輪。/田中宏輔
凝らした。
駱駝を留めて、まじまじと見つめた。
砂漠の真ん中に、林檎の木が一本、生えていたのだ。
林檎の真っ赤な実がひとつ、ぶら下がっていた。
ユダは、それを手にとって、もいでみた。
すると、手のなかの林檎は
たちまち灰となって、掻き消えてしまった。
風のこぶしが、ユダの頬を殴った。
「友よ。」
「えっ。」
ユダの腹のなかで、ナイフの切っ先がひねられた。
「師よ。」
ユダの腹から、ナイフが引き抜かれた。
「師よ。」
ユダは、砂のうえに、膝を折ってうずくまった。
「師よ。」
三たび、ユダは、男に呼ばわった。
男は、ユダの着物でナイフの血をぬぐい、腰に差した鞘におさめ
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