黒い光輪。/田中宏輔
 

 主はよみがえられたのだ。すでにここにはおられない。」
女たちは駈け出すようにして墓穴のなかから出て行った。
ユダはイエスの亡骸を地面のうえに置いた。
「さあ、出よう。女たちが戻ってきてはまずい。」
「その死体は、どうするのさ。」
──持ち出さねばなるまい。
「外に持ち出そう。」
マリアは肩をすくめた。
「わたしが背負って歩く。」
ふたりは墓穴から出た。
「友よ。」
「えっ。」
ユダの目が振り向いた。
「どうしたのさ。急に振り向いたりしてさ。」
マリアが訝しげに訊ねた。
「いや、なんでもない、なんでもない。さあ、行こう。」
大きさの異なる影が、エルサレムの門の外に
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