黒い光輪。/田中宏輔
 
叫んだ。
すると、光が戻った。
男は息を引き取っていた。
両脇の死体が片づけられているあいだ
真ん中の磔柱では
件(くだん)の犬が、溝穴にできた血溜まりを嘗めていた。
男の死を見とどけていた女たちのなかから石が投げつけられた。
いくつも、いくつも投げつけられた。
犬にあたり、磔柱にもあたった。
それでも、犬は血溜まりを嘗めつづけていた。
ローマ兵のひとりが、女たちに手を振り上げた。
石つぶてがやんだ。
ひとりのローマ兵が犬を捕まえ
尻尾をつかみ上げて逆さにすると
思い切り地面に叩きつけた。
犬は一瞬の絶叫ののち、左前脚を曲げて
躯を引き擦るようにして、その場を
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