埋設/ゼッケン
 
逃げ出した2班の犬が町内中の電柱に尿をかけて回り、
コンビニ店内に闖入したところをバイトの高校生に追い回され、
店外に追い出されたところを駐車場に入ってきたトラックに轢かれて死んだ
これまで静観していた4班、5班、6班が2班を一斉に非難し、
2班は3班に犬の放尿が飼い主の責任であることを認めた
おれの娘と息子はいまはどちらも電柱のない中央の大学生となっていた
それぞれ一人暮らしをしている
この2歳差の姉弟は犬が逃げた日、地元に戻ってきていたことを妻から聞いた
家には立ち寄っていないが、コンビニで見た人間がいたらしい
おれは2班の家から犬を放ったのはふたりに違いないと思った

この地域から電柱がなくなることはもはやないだろう
緩慢な衰退が土地に歴史を遺していく
無計画につながれた電線の交差は夏の空に貼りつけられたまま、
歴史の自己組織化の過程を伝えるだけとなるだろう
増えた空き家につながった電線に電流は流れていない

献身的な働きぶりが市議に認められて個人的な支援を受けたおれが
電柱に2つ目の街灯を設置するのを市に認めさせるのはこのすぐ後のことである
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