虚構の翼/ただのみきや
 
放たれることはない
出口のない迷路を孕み産み続けることを答えとして
「永遠の名無し」との合一を描き続ける
わたしはわたしというフィクション

  *

二人は直面した
病院の一室で
互いに相手を自分のフィクションだと思っていた
老女が男の腹を刺した
果物ナイフは男の生を上流へと遡って行った

罌粟を見ていた
真っ赤な花弁をよじ登りその先端に立って
下を覗くと日食のような目がこっちを見た
突然だれかにキスされた
背中の真ん中辺り
自分では見ることも触ることもできない一点に
そこから快楽の菌糸が全身を侵食し
心臓は幼児のように奇声を発して飛び出して行った

見つめている
あの瞳の密雲へ
今にもすり抜けそうで
いつまでも到達しない

  *

きみは運命など相手にせずに
時と重力におもねるリンゴたちを静物とした
風のような目で色彩を印象に塗り変える
あるかないかの途切れた輪郭線
舌と唇のやせこけた影法師



                      (2023年5月5日)











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