楊貴妃桜/リリー
 
 泉涌寺の
 楊貴妃観音
 のお堂の前に
 春の日が暮れて

 ほのぼのと薄く紅
 開きそめて囁く枝の
 下に 微かな響き伝え
 息づいている空気が在る

 遠い春雷の 音ない震えか
 楊貴妃桜の散りゆく今、私の
 胸の奥深くに鳴っている 何か

 その何かが、やがて噴き出そうと
 する熱いどよめきは明日への希いか
 無我夢中のうちに自分の姿を見失う幻
 かもしれないのに 蒼いのか 赤いのか
 色すらも分からなくなって唯泣いてしまう
 かも しれないのに、それでもいいのだろう

 そう 思う私のつぶやきを反響させて紅は揺れ
 うごく光源に楊貴妃観音像のお顔が重なってくる
 しっとりとした笑みを私に浮かべてくれていたのだ


戻る   Point(7)