線と風景/片野晃司
 

見渡す限りの平坦な湿地帯に一本の線路だけがあり、この小さな駅から双眼鏡で見えるほどの先にもうひとつの駅があり、底なしの湿地帯のなかでわたしたちは何キロかの距離を隔てた一次元をせめぎあっていたのだった。爆弾を積んだ無人の貨車を突撃させ、夜の闇を突いて仕掛けられた脱線器を取り除き、武装した装甲列車を走らせ、敵に接近して銃弾を受けては退却し、背後の駅へ進退の距離を報告する。しかしこちら側もむこう側も進軍のためには湿地帯を渡るこの一本の線路の徹底的な破壊はできないのだ。綱渡りのロープの上で戦うふたりのように

たとえば、ガンジス川がヒマラヤの氷河から滴り嵩を増して下っていき、巡礼の町プラヤーガでヤ
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