朝の月/リリー
 
 会社では広大な敷地内を 車と自転車が往来する。
 歩行者には「さわやかあいさつ通り」と名称される
 アーケードの歩道が設けられている。

 東の正門で守衛室に社員証を提示しても
 配属先の建屋へ向かう道は 延々と続く。
 ある朝
 西門を出て第十一工場に張られた金網沿いの高い並木、
 アスファルトの舗道を行く。
 ゆるやかな坂をのぼり勤務地の研究所へたどり着いた。

 守衛所を通り抜ける手前
 黒み帯びて煤けたコンクリートの路面で
 黄緑色した小さな毛虫に
 小型のキイロスズメバチが、のしかかっている。

 目に一瞬、闇がりから浮きあがってくる様な両者の
 カラダの彩 が飛び込んできた。
 もだえる毛虫を捕らえ、食い尽くさんとする
 荒々しい檸檬色。
 見下ろしている傍を 通り過ぎて行く人の視線がチラリ 
 私へ向けられて。

 空は うす青く和んで見えるのに
 ふと気付く
 かかる月の鋭さよ、
 それだけを 思い立ち去った。
 
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