黒い鞄/リリー
 
 つよさ増してきた街路樹の木漏れ日に
 手をかざすこともせず
 信号が青になるのを待っていた

 車道、瞳に写って忽ち忘れゆくものあり
 そして横断歩道の白線部分へと進み出る

 私の影 に接近する影を見て一歩
 左へよけると
 脇を追い抜く若い男
 背の丈は私とさほど変わらず華奢な後ろ姿
 青みがかったグレイのチェスターコートを羽織り
 角シボショルダーのビジネスバッグで
 姿勢が 少し傾いている

 重そうだな、その鞄には
 彼のそう遠くはないだろう過去と
 砂時計でいえば デスクの隅っこでくるくる
 回転する様な現在が詰まっているのか

 合成皮革だろう、ちょっと日焼けしている鞄
 なんと誇らしげに彼へ寄り添っている
 きっと彼しか知り得ない 暖かみある黒に
 なるのだろう
 
 
 
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