年代記/本田憲嵩
の秘密をむやみやたらに覗き見するようなものはもはや何も。そこにつねに開かれていたのはその書物のページの真ん中よりもすこし前の箇所、そこにはぼくによく似た男のモノクロ写真が栞としてはいささか大きすぎる栞として挟み込まれていた、ページから少しだけはみ出して。そしてそれは白紙のページに張り付いたまま決して剥がれはしない。そう、その書物はほかならぬ彼女の人生の年代記。そのモノクロの写真にはおそらくはさきほど羽化したばかりであろう春の紋白蝶。その白い羽をひらひらとさせながら、其処に憩っている、来世。
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