年代記/本田憲嵩
 
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そのあざやかな緑色の布で装丁された書物はページがかなり茶ばんでいてとても古いもののようにみえた。もうすっかりと桃色のペンキの?げてしまっている粗末なベンチにベージュの豪奢なドレスを着たその老貴婦人は座っていた。その静かなたたずまいにはどこか古風な気品を漂わせていて、かのじょはその古い緑色の書物に黙々と目をとおしている。その書物のあいだには大きめの灰いろの栞がちらりと一か所挟まったままだ。それにしてもいささか場違いである、そしてかのじょはいったい何の書物を読んでいるのだろうか?伏し目がちなかのじょの鳶色の瞳は皺や染みにとり囲まれながらも霧のようにどこかミステリアスで、かとおもえば、
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