職歴/本田憲嵩
 
さいしょに見たとき、その老人はまるで公園の置物のようにとても粗末なベンチにたたずんでいた。杖を地面につきながら。何をするわけでもないただ茫然と青い空を見つめている。ぼくは散歩のがてら一服でもしようかとそのちいさな公園にちょうど立ち寄ったのだった、その老人のとなりのベンチに腰かけて薄いベージュのコートの胸ポケットから煙草とライターを秘密の手帳のようにとりだしておもむろに火をつけた。その老人があまりに物欲しそうにぼくの吸っているセブンスターを見てくるものだから、良ければ一本どうですか?とぼくはなんのためらいもなくその老人にその一本をこころよく差しあげた。おいしそうに燻らせる煙。ありがとう、とお礼の言葉
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