佐々宝砂『星涯哀歌 1』によせて/角田寿星
、人のウワサ。そしてもうひとつは、人間の想像力。
ウルの話なら、ぼくもよく聞いた。虹色にかがやく長い髪、燃えるような瞳、宇宙焼けした赤銅色の肌。というのは、こないだ酒場で演説してた詩人の長い叙事詩。ウルのほんとうの姿は、語り手の数だけゴマンといる。
オルガ星系サンクチュアリでは、圧政に喘ぐ人々を一気に救い出した。カタラーノ星系ジュエルでは、永劫ゆるされることのないだろう虐殺を行った。スピカ近辺での海賊との一騎討ち。ペットであり、相棒でもある、フレイムタイガーのカズン。そしてウルが、ただひとり愛した女性のこと。
ウルの話なら、ほんとうによく聞いた。
ウルが愛飲したという、カペラの酒。飲むと天蓋からオルガンの残響が雨あられと降ってくるって、ほんとうだろうか。その音楽とともにウルが帰ってくるような気がして、あの苦い酒を注文するヤツが、今日も後をたたない。
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