詩のこと、言葉のこと/由比良 倖
既に魔法のように、本来言葉にならないような感情や、「何か」としか言いようのないものを、僕の心の底から掬い取ってやまないのだと。
中原中也の詩は、矛盾に満ちていて、どうしても視覚的なイメージにならないというか、中也自身が明確なイメージを避けているという感じがする。それなのに、僕の心には、ひとつひとつの詩に対しての、明確な、イメージでもヴィジョンでもない、何かが残っている。
例えば、僕が中也を読み始めて最初の頃から大好きだった「一つのメルヘン」という詩には、陽がさらさらと射しているし、その陽といっても硅石か何かの粉末のようだし、蝶が落とす影は、淡くて、それでいてくっきりとしていて、最後にさ
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