郷愁/乾 加津也
じぶんの重みに
押しつぶされた日の光が
大地に一度 身を落として
あたりを囲う 同じものたちの
小さくも楽しげな 溢れかえり
そこにある岩肌の
わずかな塩味に
あいさつのように
その明るさを少しずつ ほどく
たぶん涙よりも遠い 海の記憶があるのだろう
若葉にそよぐ 風になって
失くしたことさえ忘れていた
やさしい 符号のようなものか
離れていく つながりや
壊れてしまう ぬくもりにも
母のような大粒の雨が 絶えまなく打ちつづけると
蛙はこれまでの学習を捨てて
蛙であることを うたう
あたらしい日の光を背中に浴びて
まるい指先を集めても
じぶんが蛙であることを 堂々と
うたう
だいぶ経った
もう明るさのかけらもない 裸になった 日の光
雨に打たれながら
記憶にふける
日の光なのか
光がとらえた蛙の背中なのかと
外の明るさを頼りに ゆっくり
ほそく ながく
延びはじめようと思う
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