初鳴き/リリー
 
 今年は季節の巡りが定まらず
 戻り梅雨に降る雨の
 街で 蝉が鳴いてます

 初夏も過ぎると その年の
 誰かにとって一番はじめに聞こえた声、
 その方向へ視線を投げた人もいるでしょう

 夜半の雨音で目を覚ました翌朝
 濡れたアスファルトの路面に
 陽射しはどこか懐かしい様な旋律をハミングして
 一人で洗濯物を干していたら蝉の鳴き声が
 マンションの壁面へ反響し始め、
 ほんの短い間クレッシェンドすると
 途絶えてしまいました

 戻り梅雨に降る雨のあがった街を 
 そぞろ歩くと 
 音も 私もほんとうは
 風車みたいに回る光とひとつになっていて
 
 だれかにとっても
 いちばん はじめ鳴いた一匹はもう
 いないのです


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