白椿/リリー
 
 その日の空は画用紙に、水彩絵の具の青を薄めに溶いてから
 ほんの少し白を混ぜて丁寧に塗った様な色だった。
 山裾を走る県道の側に建つ総合病院で、予約の外来診療を終えた僕は
 急な傾斜が緩やかに拗る小道を、京阪電車の無人駅へ下り行く前に
 高台で散策してみたくなった。
 県道への抜け道を少し登ると、気持ちはすっかり高揚してしまう。
 ぼくの右親指がアイパッドで、写真のシャッターを三度切る。
 角度をずらし見ながら捉えたものは
 大きな枝垂れ桜が今を濃く、背景にゾワゾワと靡いている竹の秋。

 自分で撮った写真に些か満足し帰ろうとした僕は
 ある古民家の庭先に立ち止まる。
 
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