白い川/リリー
 

 川縁に一人立っていると
 背後を笑い声やら靴音がぞめき行く
 銀閣寺道

 並木続く小径に沿って
 川幅いっぱいを埋め尽くす淡い色
 水嵩を調節する一枚板で堰き止められた花片が
 まるで織物職人の手元から
 畳の間へ巻き解かれたばかりな一反の縮緬みたい

 黒目の先に仄白さが立ちのぼり

 もしも笹の葉一枚あるのなら
 舟をこしらえて
 ここに浮かべてみたいのです

 美しい碧の笹舟

 体格のよい老夫が渡し守で現れて
 パッセンジャーの人影は無く
 靄の向うへ
 漕ぎ進む
 遠ざかってゆく沈黙の小舟に
 亡き母との七年間の闘病生活が見え隠れする
 痩せた躰は輪郭すら薄らいでいく様だった八月の終わり

 どこからか一羽鋭く暮烏の嗤い
 雲はかげろう
 川べりに静かさと騒めきの気配が入り混じる

 瞼 にじんで水底へと移ろう仄白さ
 川面は春
 はるを、孕んで私をみるのです

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