春雨詩織/ただのみきや
呼び名はあっても顔のないことばたち
絃を切れ
始まりも終わりもなく
拾い上げれば棘のよう
甘いめまいが耳元で
月のように秘密を脱いだ
春の上に春が重ねられる
繰り返し押されてきた烙印のように
記憶の同じ所に少しずつずれながら
やがてイコンとなった
女の薄皮一枚破れば砂塵となってあふれ出す
はしゃぐな 犬の骨を見つけたくらいで
ただ聞け 鳴く砂の音を
雨にとらわれて
掌の上には東も西もなく
やわらかい蜘蛛が死んでいる
すすり泣くような地下水で冷やされた心臓よ
刻むリズムはなにと絡む
イズムなき大地から天高く起った傷
あの震える肉 潤んだ骨笛
(2023年3月25日)
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