あの子/リリー
先週は半袖でいられたのに急に
風の冷たくなって
靴下も履いていない あの子は
三ヶ月くらいだろう
膝でリズム取る
まだ若い男
の揺かごに ぷらんぷらん
あの子のあんよ
男へ伸ばそうとしている腕の短くて届かないから
抱っこ紐のベルトへ触れる白いお手て
あの子はずっと見上げてる
白い大きなマスクと眼鏡の目線が
手に持つスマホにしかない
男の顔を
あの子はまた
短い手と足を男へ伸ばして触れようと
さっきから
話しかけているじゃないか
とうとう
「あーッ。」
一声がホームに響く
急ぎスマホをジーパンのポケットにしまった男は
私の居るホームへ背を向けると
今度はあの子の顔を見て
膝でリズム取りつつ歩いてみる
いつもなら見掛けない若い男は元居た位置へ戻った
大きなリュックを背負い荷の嵩張る手提げ袋まで持って
二人の 待つ電車は午前七時四十ニ分発の大阪方面神戸行き
プラットフォームのアナウンスでは
今朝に限って五分遅れている
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