春うらら/リリー
六棟の高層マンションが近距離で建つ
そこに住民の憩いの場として
児童公園とグラウンドが設けてある
広場の桜並木には二人掛けのベンチ
一脚に休憩中の清掃員が一人座っている午後
春うらら
他にグラウンドには誰の姿も無いと
見留めた途端
マンションの陸屋根から下降気流が瞬く間
並木周辺を覆い隠す
よく見ると
ピンクの うず潮がどよめいて
高度を下げながら広場の中央へすり動く
くっきりと
もも色した大きな円盤が
着地すると一瞬で消滅
立ち入って見た広場の砂地に
地上絵のようなドーナツ型した跡がある
そうして花片の波濤から現れた
ベンチに座る清掃員
あの人は何を見たのだろう
どうして消えてしまわなかったのか
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