春霞/リリー
 

 沈丁花の香しさ
 小風に誘われて
 こころが遠い場所へタイムリープしてしまう

 「ここから見ると。」
 海沿いは照り映える鱗波がどこまでとなく続き
 うっすら空に霞がかる

 隣に立つ貴男は膝を曲げた
 目の高さを私に合わせる視線が伸びて捉えた大観覧車
 岬側で上昇していくゴンドラはゆっくりと
 陸側へ回転してくる
 ちょっとマジメな素振りした貴男の横顔が
 私と目の合うと
 にこやかに解けて
 何故だか忘れられなくなってしまった

 あの日貴男に
 沈丁花を好きな花だと言ったのかもしれない
 朧げな記憶
 小風に誘われて浮かんでくるのは
 とおい場所に居るふたり

 うっすら空に霞がかる
 綺麗だとだけ貴男へ伝えた
 いまも
 しずかに明るい海沿いの大観覧車

 「ここから見ると?」


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