木屋町にて/リリー
 

 ロレツの回らぬほど酔った男が
 何度も同じ事を怒鳴りながら
 女に絡みついている

 能面の様に 厚ぼったい女の顔は
 何の感動も示さず
 唯 その口だけが別の生き物のように笑っている

 酔った男にとって
 女の顔は尊い神の様に見えたのか
 それとも
 怒りのぶち開け場所に見えるのか
 胸元の乱れたキャバドレスのフリルを正そうともせず
 女は口だけで笑って 笑って 又笑って見せる

 冬が訪れる前の
 空しい華やかさの 人ごみに
 ひとの流れの絶えるところがある
 話し声も絶え
 靴音さえも遠く
 
 その一ときの沈黙に
 わたしは耳をすまして立ち止まる
 夜の木屋町


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