木屋町にて/リリー
ロレツの回らぬほど酔った男が
何度も同じ事を怒鳴りながら
女に絡みついている
能面の様に 厚ぼったい女の顔は
何の感動も示さず
唯 その口だけが別の生き物のように笑っている
酔った男にとって
女の顔は尊い神の様に見えたのか
それとも
怒りのぶち開け場所に見えるのか
胸元の乱れたキャバドレスのフリルを正そうともせず
女は口だけで笑って 笑って 又笑って見せる
冬が訪れる前の
空しい華やかさの 人ごみに
ひとの流れの絶えるところがある
話し声も絶え
靴音さえも遠く
その一ときの沈黙に
わたしは耳をすまして立ち止まる
夜の木屋町
戻る 編 削 Point(4)