ヒタキ/なつき
老眼鏡の在処が判ったから
躊躇うこともなくなった
遠く遠く
山々の向こう側に
僕と君の故郷がある
如何だろう
また、行ってみないか?
君の頭を手櫛で梳かしながら
僕はボソリと、声を掛けた
返事はこれから
愛ならここにあるし
夢なら今からでも
また紡げばいい
ふたりでならきっとできると
また我儘なことを思い始めて
君はくすりと
はにかんで笑った
それだけでいい
たったそれだけで
僕は生まれてきた意味を
もう一度噛み締める
キビタキが宙を切る
あの鳥の囀りが恋しくて
戻ってきたのだと
君は嘯く
ここに在るのは
僕等ふたり分の居場所だけだ
忘れ得ぬ想いが根を張って
それで今が在るのだと
そう信じている
ヒタキに誘われるようにして
僕等の旅は
とどまるところを知らない
まだ大丈夫
君となら、きっと何処までも行けるからーー
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