遠く 銀に/木立 悟
朝は聞こえず
雨は遠く
水平線の陽
かたわらの光
からだをつらぬくかがやきの芯
やわらかくやわらかく変わるかたち
滴の重さの鳥たちが
つまずきながら屋根をわたる
ひとつの窓に
数え切れない空が集まり
異なる時間をちりばめられた
ひとつの曇にまたたいている
鳥は未だわたり終えない
音が音の絵筆を置くとき
窓のかたちの光の上には
ひとつの笛が描かれている
何かにつまびかれる歩みのひとが
小さく小さく残してゆく声
冷えてはあたたまり ふるえる声
遠くを近くを くりかえす声
双つの肩に次々と
鏡は積もり こぼれゆく
海のにおいの雨が来て
鏡から鏡へすぎてゆく
緑をせわしくふちどる手
遠く 銀に鳴り響く手が
緑を緑にするものへ
光の笛を手わたしてゆく
灯りのように揺れ動く
大きな遅咲きの夜の木蓮
石の屋根に残された
一羽の朝の足跡を見る
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