恋情/ただのみきや
音色から剥がれ落ちた濁りが殻を持つ前に
殺意をなぞる千鳥は瞳に霧を孕む
記憶の上澄みが凍りつく立方体の朝
日陰でふるえながらほほ笑むものがそうだ
やわらかい舌の根元に産み付けられた偽証の卵
いのちのこだま そのしたたかさ強靭さ
今この時この刹那万人のまなざしが摘み採って
たとえすべて手が花弁を模倣したとしても
それは密林の蝶のように日常を覆う
輪郭をほどいて陰影に浮かんだ無数の顔ではなかったか
泡沫を疾駆する馬たちを憂鬱が追いかける
昨日と今日と明日しか思わず己の範疇しか知らず
知らぬことに不安も疑問も持たずひたすらに
求め 憧れながら飢え 満たされないからこそ
一
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