森の中の女の子/リリー
 

 或る日 小高い丘の草の間で
 空まで貫く
 甲高い叫び声がしたのです

   「七十番と八十六番と九十八番が
    逃げたっ!」
 牧場の牛舎から飛んで出た
 ファームのマスターが軽トラックで
 坂道下る三頭を追う

 秋風が笑う牧草地の昼下がり

 百数十頭の牛たちの
 顔を覚えたその子は細っこくて色白で
 関西弁を口にする
 
 私立高校を中退して
 酪農ファームにやって来て三か月
 彼女は今日も黙々と
 牛舎で糞清掃をするのです

 彼女の来てからファームの人達は
 乳牛の乳房がきれいだと言う
 牛たちが寝そべる汚れた干草を
 頻繁に取り替える女の子

 夕刻に自動搾乳機を二台担ぎ洗い場へ
 戻ってきた彼女は
 その日町の出先から帰ったマスターに
 呼び止められて
 
 チョコレート菓子を手渡す彼は笑います
 この間農協で女の子も挨拶をした
 優しい目をしたおばさんが
 マスターへ言ったそうです

   あの赤い長ぐつ履いた
   那須野の白雪姫はどうしてる?


 
 
 
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