ステージ男/リリー
 
 
 大阪南港から三人でタクシーに乗りました。
 あたしと後輩の女の子が後部座席で
 かしましかったですね。
 助手席に居る貴男のことを
 「アクの強いじゃが芋」だなんて
 茶化して笑いました。
 駅に着くとあなたは
 あたしたちへ苦笑いして。
 運転手さんから
   「あんたが払うんかい。」
 なんて、言われたぞ!と
 呟きましたね。

 そんな貴男はギターを持てば
 フォークソングの似合う人でしたね。
 貴男のベースな歌声には艶のあり。
 こういう歌も歌ってくれると
 カラオケルームで誰もが聴き惚れて
 しまいました。
 アリスの「チャンピオン」。

 カラーボールの下のあなたは眩しくて。
 その熱唱するステージ台へ
 後輩の男の子が飛び込んで
 片膝を付き両手で演出した紙吹雪。

 あのカラオケルームで笑う貴男。
 あれは二十歳を過ぎたばかりの
 少年の面影のこす青年の笑顔だと
 今なら分かります。

 あの頃それの分からずに
 あなたを好きでいた
 自分には戻りたくありません。

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