瀬戸内レモン/リリー
 
 
 グラスの縁に
 刺さっている飾り切りレモン
 指先がそれを摘み上げて
 絞ります

 グラスに
 シュワシュワと濃度を増した酸っぱさが
 沸きたち消えていく
 その香りを 見つめる瞳

 唇が絞ったあとの
 大きめなカットレモンへかぶりつき、
 黄色い皮に歯を立てる
 実の吸いまくられたソレは
 小皿へ置かれます

 二歳年上な同僚の前だから
 そうしてしまう
 ティータイム そうしてから
 ストローを口先へ運び飲み始める
 ささやかな
 爽やかさを誰が知るでしょう

 其処は観光案内の情報で
 寄ることを決めていた喫茶店
 尾道の坂の途中にある
 木々に埋もれる「梟の館」

 会社での密かな想い人
 その年下の男がまた別の課の
 若い娘に気持ちを寄せているらしい
 それを噂に
 聞く夏旅の午後でした

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