ない/望月 ゆき
 
仕事から帰ると
ぼくの部屋からは、なにもかもなくなっていた

電話台の上に電話はなく
テレビ台の上にテレビはなく
洗濯機と冷蔵庫は
黒っぽい埃の四角形だけ残し
スチールのベッドだけはなぜかそのまま
誰かのぬくもりを保っていた

見渡すがらんどうの部屋の
すみっこに
じゃがいもが、ひとつ
転がってぼくの方を見ていた
することもないのでぼくは
じゃがいもと並んでベッドに横たわっていたら
6日間が過ぎた

6日たったじゃがいもは
皮膚が少しよれて、皺ができ、数個の芽を生やしている
その若い緑を眺めながら
ぼくは考える

今のぼくは
このたったひとつのじゃがいもを食べて
とりあえず生きるべきか、それとも
このじゃがいもの芽をぜんぶ食べて
いっそ、






戻る   Point(10)