エインスベルの逡巡(一)/朧月夜
 
そのころ、エインスベルはフランキス・ユーランディアを解放していた。
「あいつは、上手くやりますかね? 再び祭祀クーラスに寝返るのでは?」
そんなリグナロスの疑念を、エインスベルは一蹴した。
「彼が、クーラスを殺さなくても良い。殺そうと思ったことが大事なのだ」

「あなたの言うことが分かりません」と、リグナロス。
戦士エイソスも、エインスベルの楽観主義には懐疑的なようだった。
「わたしが思うのは、この国の保守派に罅(ひび)をいれるということだ。
 彼らが相争い、自滅することを望んでいる」
 
「くくっ。お前は相変わらず策士だな、エインスベル」
「策士にならなければ、この時代を生き残れまい?」
「さあな。策士になっただけでこの世界を生きられるのであれば、苦労はしまい」

「そうだな」……エインスベルは、少しうつむき加減に首肯した。
「気になるのは、オーバ・ニーチェの動向だ。この国は急速に右傾化している……」
「それは、次のライランテ戦争を望むということか?」戦士エイソスは尋ねた。
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