秋のホーム/ホロウ・シカエルボク
 
昨日と同じ穏やかな天気。昨日よりは少し寒い風。私はまだ生きていて、昨日私よりちょっと早くここに居た彼はもう居ない。反対側のホームを急行が通過する。きっと、生まれることにも、生きることにも、死ぬことにも理由なんてない。私たちはみんな、自分をこじつけて生きている。投げ出すことは幸せだろうか。それは一度しか出来ない。だったらそんなものに思いを馳せるべきではないかもしれない。不思議な縁でこのホームですれ違った彼の言葉だって、私はいつか忘れてしまうだろう。なのに私はなにかが悲しくて仕方がなかった。もっと若いころなら声を上げて泣いてしまっていたかもしれなかった。それは説明出来るようなことではなかった。彼の死と同じ、まったく説明出来ない類の感情だった。そして私の乗る電車がやって来た。私はすっくと立って、見知らぬ、まだ生きてる誰かの後ろに並び、そして乗り込んだ。電車が動き出した瞬間、誰かがクスっと笑ったみたいな、少しこそばゆい感じがした。





【了】
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