祖母と単線/ちぇりこ。
ながら昇ってゆき
客車内は海の言語で満ちてゆく
車窓に貼り付いたぼくの目ん玉は
海底とディーゼル機関をぐるぐると往復する
突然岩陰からのっそり現れた
オニオコゼのような車掌さんが
泥砂を巻き上げながら通過する
怯えたぼくは祖母の目ん玉の裏に隠れる
祖母は目ん玉の中からぼくを取り出して
手のひらに乗せて
どうってことない歌をうたう
どうってことない視力を取り戻した
小魚の目ん玉は
どうってことない海流に乗って
知らない岸へと運ばれてゆくのだろう
単線の終着は決まっていたとしても
祖母の手の中でぼくの目ん玉は
転がされて転がって
目まぐるしく変わる車窓の景色も
次々と置き去りにされてゆく
晩秋のプラットホームで俯いた人の
横顔みたいな木守りの
柿の実ひとつ
手の中で転がせない
廃線になった単線の向こう側で
ゆっくり振り向く祖母の目ん玉は
古い写真の中で
光を映さずに微笑んでいる
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