柔らかな硝子/暗合
 
いつく。もう我慢の限界だった。

 彼女の首の皮膚は濡れた紙のように簡単に破れる。少し酸っぱい汗の味がする。それから俺は彼女の血管を破る。彼女の血管から大量の血液が俺の口の中に流れ込んで、むせて咳き込みかけたが、堪えて湧き出る血を飲み続けた。

 彼女の血はマグマのように熱くて、彼女が少し前まで生きていたことを感じさせる。

 違う。

 今も生きていた筈なのだ。

 俺が殺したから、彼女は生きていない。

 俺は血を飲み続ける。俺は肉を食らい続ける。ただ食べることで何もかも忘れようとする。

 彼女を食らい尽くしてから俺は空を見上げた。

 気づけばもう暗くなっていて夜空には無数の星が広がっている。

 星がどんなに美しかろうが彼女の瞳の光にかなうはずがない。

 彼女が死んだ後、彼女の目を見たら、全然美しくなかった。

 俺はその光を失った目を見て吐いて、その後、地面にこぼした彼女を拾い集めて呑み込んだ。

 もう俺はただ目をつむることしか出来ない。

 胃の中の血が体中の肉に溶けていくのを感じた。

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