小詩集・波/岡部淳太郎
 
とおいだけの波
浅い眠りのなかで
人々は私の声を聞いた
どこか引きずり
啜り泣くような
私の 歌のような声を}


波 6

寄せてくる
返ってゆく

その性質のなかで波は
すべてでありながら
なにものでもなかった
その虚しさとともに波はただ

寄せてゆき
返ってゆく

それだけを飽きもせず
繰り返してきたのだった
時にそれは大きな怒りのような高まりとなって
人の家や暮らしを また
人そのものを
飲みこむこともあったが
次の朝には何事もなかったように
また穏やかな顔をしているのだった

寄せてくる
返ってゆく

その律動のなかに
すべてのいのちも
いのちでないものもあって
それらはすべて波とともに
その塩の味とともに
あるだけなのだった




(二〇二二年十一月)
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