寄せてくる
返ってゆく
その性質のなかで波は
すべてでありながら
なにものでもなかった
その虚しさとともに波はただ
寄せてゆき
返ってゆく
それだけを飽きもせず
繰り返してきたのだった
時にそれは大きな怒りのような高まりとなって
人の家や暮らしを また
人そのものを
飲みこむこともあったが
次の朝には何事もなかったように
また穏やかな顔をしているのだった
寄せてくる
返ってゆく
その律動のなかに
すべてのいのちも
いのちでないものもあって
それらはすべて波とともに
その塩の味とともに
あるだけなのだった