空/由比良 倖
 

古びた本たちだけが僕を知っている。
僕と一緒に古びてきた、本とノートのある場所、
そこだけが僕の故郷。
寂しい遺伝子。 物質なんて信じないけれど、
寂しさだけは信じている。


真っ暗な空を、黒い蝶が飛んでいる。誰にも見られることなく。
現実って、多分そういうものだ。世界は枝分かれしている。
僕は枝から枝へ、ワープする。 例えば言葉によって。
どの枝でも、僕は孤独だ。 蝶の飛ぶ、黒い空、
例えばそれが、世界の全てなのかもしれないのだから。


戦争に行く。僕は、僕の銃の弾を抜いておく。
そして逃げ回るんだ。
僕は捕虜になる。収容所の、ベッドから空を見る。
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