さまよう地下茎/ただのみきや
 
る時は必ず両手で鼻ごと口を覆っていた

姉は全ての文字を逆さに読む癖があった
下から上 右から左 文末から文頭
ただ遡りたかったのだろう
終わりから始まり 行き止まりから入口以前へ

祖母は土偶として縁の下に埋められて
蔦のように家を覆い尽くしていた
夜には土に還そうとする意思が建物を軋ませた

ある日父のギターの弦を母がハサミで切った
するとすぐに母の頭がギターを突き破った
母は裸になってクリオネになると
幼子の掌が模すお花のように父を包みこんだ

妹の口からひよこ豆みたいな魂がとびだした
わたしはそれを拾って妹の目の前で食べた
妹は目を丸くしたまま人形になった

水槽には金魚の姿はなく水と笑い声があるばかり



                     《2022年11月12日》








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