湿潤/ただのみきや
流失
湿潤
きみの庭で花は摘まなかった
色や形 匂いは楽しんだけれど
ぼくは無傷のまま
伏し目がちの陽射に微笑み返す濡れ落葉
踏んでふるえる鳩のように
今朝もまだ乾かない想いを着せられてはいるが
それは斬りつけるナイフではない
ぼくは無傷のまま
季節の絵具に溶けてゆく
したたる厚い雲
黒い足音で埋め尽くす
ことばは孤独の転生
純粋性を保つために
ガラクタで覆った瑞々しい非在
追われて追って追い詰められて
青い蝶が燃えた
唇で 爪先で きみの目の中で
現実という幻想を内側から張り裂くため
心臓は非常ベルを鳴らし羽ばたいた
声の影が目まぐるしく走り回る
あの厚みのない行間の谷底へ
《2022年11月6日》
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