踊るひとの/ための連祷/塔野夏子
 
あたりいちめん
黒曜石の闇
静寂

ひんやりとした闇を
全身で感受しながら
踊りはじめる
身体ひとつ

黒曜石の闇の中
踊っている自分の
手先足先さえ見えず

けれどその身体は
踊りつづける
見えなくとも
その踊りが
うつくしいかたちを織りなしつづけることを
祈りながら

踊る
その足もとから
やがて
真夜中の虹が立ちはじめる
最初はごくかすかに
それから少しずつ
あざやかさを増して
踊るその身体を
闇に浮かびあがらせてゆく

なおも
祈る
うつくしいかたちを織りなしつづけることを
その祈りは
踊り手自らだけのものではなく
いつしか
闇の中に
遠く近く
数知れぬ祈りが満ちている

黒曜石の闇が
ゆっくりと流動化しはじめる

真夜中の虹は
いまやその踊る身体が
ひるがえす衣のよう

数知れぬ祈りは
楽の音にも似て
そのただなかで
踊りつづける
身体ひとつ
うつくしいかたちを織りなしつづけることを
なおも
祈りながら



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