投身万華鏡/ただのみきや
 
在と呼び名の結束を解く

無言で光を集めるバラ
一輪の炎
五十年は長いか百年は短いか
太陽は長いのかそれとも短いか

彼女の正気はゆるやかに傾いでいった
吊り橋から身を乗り出す柱時計のように
ひとつの沼を抱いて
身ぎれいなのに帯でも乱れたかのよう
吐息を羊水にして
つめたい蛇の皮膚呼吸
木霊のないところ
ほほえみが裂けた
粟立つようなささやきの羽化

ごらん視線を巧みに配置したあやとり
創造的悪意
活けられた(殺されて美しく晒された)
ことばたちその捻じれその揺らぎ

石段を下りて川面に映す
水は記憶の糸をかすかに引くが
先では忘却が見つめるばかり
水の顔は忘却
抱き寄せる腕も含ませる乳房もなく
母の顔も子の顔も水また水
時間は追うものでも追われるものでもなく
ただ水面に影
水底には石

小春日和を抱く
形見のむこうへ頬を寄せるかのよう
現実は頭の外にある
誰もみな囚われの夢想家



                《2022年10月30日》







戻る   Point(2)