cross road/秋の不在証明/ちぇりこ。
 
「弦楽四重奏をついうっかり
公園のベンチの上に置き忘れてしまいました
どなたかに拾われてしまったのなら
諦めて下さいな」

銀杏の葉っぱの黄色い成分と
手編みの夕陽を丁寧に織り込んだ
ニットの老夫婦が、夕凪の渚で波に解かれ
水平線に引き寄せられて橙色に分解されてゆく
ああ、渚へ打ち上げられてくるものは
漁火の幽霊でしょうか、水にあって、なお
燃え盛るというものは、どんなにか
骨の折れることでしょう

「宛名のない書簡を手に持ったまま
配達人は十字路に立ちつくす」

古いオルゴールの蓋が開いて
胸に穴の空いた小さなお人形が
行方知れずになりました
風の扱いには
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