永いひとつの息の向こうから/ただのみきや
ネジを巻かれた鳩たちが清々しく形を失くしてゆく
スラリと伸びたきみの脚の影にいつまでも触れていたい
空の上から地獄がこぼれてくるまで鬼ごっこみたいに
雨上がりの土手で光りながら まったく
美しい落度だと崩れる肉体の中で笑いが咲く花のよう
見えないモデルのために
その生きものを想うと全身が唾液腺になる
たましいは騙し絵の犬のように物欲しげで張り詰めた
沈黙と化して追いかける
その生きものを想うと手が無数に伸びて
絡まり合いながら電灯を点けたり消したり何度も
その生き物になったり自分に戻ったりする
その生きものは誕生と脱皮と死を繰り返し
残像は白い微笑みに似て忘却の淵から鼻腔の奥の方
鋭い背びれとなって斬りつける
その生きものは飽くなき餓えであり零を掛けられた希望
たえずそこに在って触れることのできない
やわらかな永遠の時限爆弾
《2022年10月15日》
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