羽化することのない痛み/由比良 倖
ようなものは書きたくない。
多分、僕はまだ「今」だけを届けられる言葉を書いたことがない。心がしんとする。僕は中原中也の詩が好きだけど、彼の詩を「古典」として読んだことがない。ニック・ドレイクも中也も、まるで今生きている友だちみたいに感じていて、僕も出来れば、この呼吸と鼓動をいつまでも伝えられる音や言葉を紡げたら、と憧れるように思う。
ひとりきりの夜中。ひどく感じやすくなってる。自己の消失・拡散とは逆のベクトルに向かって、僕は生存している。生きている自分を感じる。僕は宇宙になって、あらゆる光を発している。
画集を見ていると、絵を描いた人や、本を作った人と、共通の意識を、自分が持っている感じがする。まるで、僕ひとりの為に作られたものか、それとも、まるで、僕が自分で、今この瞬間、これを、描いているような。
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